あやかしが見える霊力を持つ、女子大生の津場木葵(つばきあおい)。ある日突然、あやかしの住まう隠世(かくりよ)にさらわれてしまう。原因の鬼神には葵を嫁もらう約束があるというが、その理由は祖父の借金のカタ…!?
「鬼の花嫁なんて絶対に嫌!!」
借金を返すため、隠世での葵の奮闘の日々が始まるーー。
あやかしお宿「天神屋」を舞台に繰り広げる、葵の細腕繁盛記!
アニメ化もされているようです!知らなかった!(・o・)
ーーー目次ーーー
第1話(葵が隠世へさらわれる話)
>> 第2話(大旦那様と駆け引きする話)
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※↑タイトルはないので適当につけてます
あらすじ
女子大生の津場木葵(つばき・あおい)は亡き祖父・史郎(しろう)の遺品を整理していました。史郎はいわゆる”クズ野郎”でしたが、驚くほどの色男でした。それでも彼は偉大な人物だったのでしょう、弔う列はどこまでもどこまでも長く続きました。それはまるで、絵巻物で見る百鬼夜行のように。
葵は史郎の遺品から、白黒の写真を見つけます。そこには若かりし頃の史郎と、どこかの老舗が映っていました。「天神屋」という看板がかかっていて、史郎を中心に従業員らしき人の姿も大勢ありました。
それを見て、葵は違和感を覚えます。美しいけどどこか…。
葵「…人ではない?」
ゾッとしながら写真を返すと、裏には祖父の文字がありこのように記されていました。
「かくりよの
宿屋に泊まりけり
重大な約束事あり
忘れるべからず
まだ果たされていないのだから」
厄介な匂いしかしないその文言に葵は眉を下げ、写真自体を見なかったことにして片付けを進めたのでした。
……………
………
早朝の河原、大学へ向かう途中で腹をすかせた手鞠河童(てまりがっぱ)たちが葵に群がってきました。すると葵は手慣れた様子で持っていたおにぎりを振る舞います。河童たちはとても喜んでいます。
河童「葵しゃんは変わった人間でしゅねぇ」
あやかしが見える人間は大概自分たちを消そうとするのに、葵はご飯をくれるのです。
葵「私だって そんな力があったらそうしているでしょうよ」
河童「葵しゃんはそんなことしないのでしゅ 僕知ってましゅ」
葵「…フン」
空腹は苦しい。それを知っている葵には、ひとであろうとあやかしであろうと、飢えているものを黙って見過ごすことはできませんでした。
幼い頃からあやかしが見えた葵は、親にも周囲にも気味悪がられ、いつも1人でした。その孤独から救ってくれたのが史郎で、その祖父もまたあやかしが見える浮世離れした人間だったのです。
史郎の悪名はあやかしたちにも知れ渡っており、そのせいで葵も厄介事に巻き込まれることも多々ありました。そんなとき葵はあやかしに料理を振る舞います。腹をすかせたあやかしには先に料理を差し出し、ある程度襲われるのを回避していたのでした。
……………
………
河原を離れ、大学へ向けて足を進めたところに”それ”はいました。赤い鳥居の下、花が咲き乱れた階段に座る、鬼の面をかぶった若い男のあやかし。
あやかし「腹が 減った」
手鞠河童とは明らかに違う高位のそれに、己が”見える”者であると悟られないよう無視を決め込む葵。しかし、あやかしは何度も「腹が減った」と繰り返すのです。結局、無視しきれなくなって、葵は自分のお昼用のお弁当を差し出してしまいました。
あやかしは静かにお弁当を受け取ると、包をほどき、お行儀よく食べ始めます。
あやかし「いただきます」
それを見た葵は、自分は大学があるから食べ終わったお弁当箱はそのへんに置いといてくれたらあとで回収するから、と言い残し、その場を去ろうとします。すると、
あやかし「おいしいよ 葵」
葵「……… だったら残すんじゃないわよ」
思わぬ言葉に驚いた葵はそのまま去りますが、ふと気が付きます。なぜ、あのあやかしは自分の名前を知っていたのだろうか。
……………
………
13時、講義が終わりお弁当箱を回収しに戻ると、階段の上にそれを発見します。洗われたお弁当箱と一緒に、手ぬぐいと綺麗な花の簪も一緒につけられていました。
葵「案外真面目なあやかしだったのかも…」
手ぬぐいには文字のような模様が一面に並んでいました。どういう意味なんだろうと葵が手ぬぐいを掲げた瞬間、突然ひとりでに手ぬぐいが動きだし、葵を飲み込んでしまいます。
水中のような場所に放り出された葵。目を開けると、そこには朝の鬼の面のあやかしが立っていました。あやかしは葵の手をつかみ引き寄せーー、
あやかし「ようこそ、かくりよへ 僕の花嫁殿」
驚く葵に、そう告げたのです。
感想
史郎おじいちゃんは日本社会のクソ野郎相ということですが、葬儀が百鬼夜行のようにたくさんの人が集まったとのこと。やることなすこと豪快だったんだろうけど、でもきっと性根は悪い人ではなく人たらしタイプの人だったんだろうなあ。
もちろん、それを良く思う人悪く思う人それぞれいたんだろうけれど。
孫娘の葵ちゃんはちゃんと真っすぐに育っているし、優しい子。そばにいる人が愛情を注いだ証拠だと思うのです。
そういえば、私の大学の卒業論文は親(近しい人)と子の愛情の認識差に関するものでした。結果はうまく出すことはできませんでしたが、やはり誰しも自己承認欲求というものは持っているもの。愛情をもらわなければ、愛情表現をすることもできない。
おそらく葵ちゃんもおじいちゃんと出会わなければ、とても荒んだ心の女性に育つ確率が高かっただろうし、はやり史郎さんはしっかり愛情を注いだんだなと思うのです。
さてさて、親に捨てられ空腹で苦しんでいたときに現れた人影、自分の名前を知ってるうえ花嫁だというお面のあやかし。
突然つれてこられた異界で、葵ちゃんの奮闘劇が幕を開けます…!
★第2話